the rendez-vous point|それじゃ、入部届を書いてくれ

このコラムでは、the rendez-vous pointにちなんで、大庭やLOVEMEメンバー(LOVEME&COMの仲間たち)のランデブーポイント(振り返ってみれば、ここがあったからこそ決断できた、ここがターニングポイントにつながっていた、という時点)にまつわるエピソードをご紹介します。

物語に集中するために、このコラム群は基本的に「文字中心」でお送りいたします。

前回の記事を出して以降、記事に対するコメントやメッセージを多数いただきました。
1週間以内でこれまでの最多記録が更新されておりまして、「人はワタクシごときの自分語りに興味があるんだな―」と不思議な気持ちです。

次はいつ?とお声掛けいただきますが、なにぶんこんな性格なので、気分次第でお届けいたします。

なにかに取り組むとき、あるいは始めるとき、誰かに自己紹介するとき…
「ポジションがない」と尻込みしてしまったり、妙にポジションにこだわったりすることってありませんか。
あるいは、ある特定のカテゴリーに安心することも。

私はそういったことが皆無だとは申しませんが、「無頓着すぎる!」と指摘されることがよくあります。
けれども、自分よりももっと無頓着な人がいる、そして素敵な生き方をされていると若い頃に気づくチャンスがあり、好奇心のままに飛び込むことができているのかもしれません。

目次

書道の師匠が2人いる話

私には、書道の師匠が2人います。

ひとりは、私に正しい鉛筆の持ち方を教え、筆を握らせてくれ、師範代にまで育ててくださった先生。
2シーターのいい音がする車(たぶんシヴィックだった)を乗りこなし、アスファルトが削れるんじゃないかという高い高いピンヒールを履いて、エメラルドグリーンのマーブルネイルを「見て、今日のはキマってる」と見せつけてくるK先生です。

K先生のもとで、叱咤激励されて過ごす時間が好きだった私。身体の弱かった幼少期、明確に、子どもにもわかりやすく「背中を押してくれる」存在だった彼女との出会いは、力強く自分の意志で進むことをいまでも思い出させてくれるもの。
機会があればまたお話しします。

もうひとりの師匠は、高校の書道科専任の先生、N先生。

N先生は普通科高校のレアキャラとして書道準備室をホームグラウンドにされており、職員室には「だいたいいつもいない人」。
1年次の担任だったN先生は、「表に見える」担任業務もほぼY先生にまかせ、Y先生のいない日は「ああ、今日はホームルーム必要?やったことにしておいてくれますか。みんな早く帰りたいでしょう、デートとか…」というタイプ。
提出物を出すためにわざわざ3階まで上がるのが面倒なクラスメイトたちは、書道教室と同じフロアに部室がある私に荷物を預けていたので、書道の授業がない日でもよくN先生のところに行っていました。

N先生は先生としても書家としてもおそらく異端で、バイトのためにあと10分で出なければならないのに「利き墨汁」につきあわされたり、準備室の外に置いてあるヒルガオの水やりをしながら「人間ってさ―」という話を聞かされたり、当時の私には意味がわからないので「めんどくせぇ先生」と思っていました。

それでもN先生の授業が好きでした。
入学して初めての授業でみんな勇んで書道セットを持ってきたのに「篆刻をします!」と言い出して石を配り、石について調べさせ、理科室で顕微鏡をのぞかせてくれたり、
おそらくかなりの高級品であろう先生の特大筆で揮毫させて「いいぞ!もっとやれ!いいんだ!散らしまくれ!」と思ったままに書かせてくれたり、
そのあと、教室を汚してしまったのを「私の責任でございます!明日頭を丸めてまいります!」と、ご自慢のshaved headを校長先生に差し出して笑いを取ってくれたり…

いまから思えば、とても魅力的な先生です。

恒例の呼び出し

N先生は…というか、私の通っていた高校では、生徒を先生が呼び出すことが珍しくありませんでした。

私の場合は良くない意味でのお呼び出しが多かったわけですが、良い意味でも呼び出して、今で言う1 on 1を積極的に行い、先生と生徒とが数学の解法とか、部活の進め方とか、教室のレイアウト、果ては花壇のデザインまで、何でも議論する学校でした。

オモシロタノシズムの師匠も同じ高校の大先輩で、ヨガのJunko先生も大先輩。(オモシロタノシズム系列では「県立オモタノ高校」と言われているのは、ここだけの話にしましょう)
どちらも人生を楽しんでいらっしゃる方なので、母校の力も大きいのかもしれません。

N先生の話にもどります。

3年生で、夏服を着始めたその日、N先生から呼び出されました。

「おお、今日、放課後に書道室に来れますか。あー、夏服か…体操服でもいいですけどね。汚れるかもしれない。手伝ってほしいことがあるんですよ」

バイトに行くまでなら大丈夫だということ、部室に寄って(サボりがちのギター部でした)弦を2本変えてから行くと伝えてホームルームに戻りました。

制服が墨で汚れたら牛乳で落とすのは面倒だなあ。まあ高校最後の年だし、汚れてもいいか。なんてことを考えながら、用事を済ませてN先生のところへ。

用意されていたのは、大きな…おそらくF10とかもっと大きなサイズの色紙3枚と、N先生のおろしたての大きな筆でした。

「卒業制作です。アルバムに載せるから、書いてほしい。あなたの書が必要です。書くのは『愛』『智』『美』。この3文字。なんぼ筆で遊んでもいいが、この字の練習は許しません。一発勝負です。」

一発勝負…えええ…
表情を見破った先生は、歯を見せて静かに笑い、準備室でコーラを飲んで戻ってきました。

先生の気迫に圧されながら、筆を撫で、色紙に手をあて、墨をすって含ませ、一気に―

すべての情報がとまり、一気に、呼吸とともに書ききったのをいまでも思い出します。
私の望む方向に、そのままに、筆がついてきてくれるような、逆に筆に乗っかっていくような感覚。

最後の一画を書ききって筆をおいたとき、N先生がこちらに拍手をしてくださいました。

「ああ、いいですね、いいですねえ!とても良い。いいですねえ!生命だね。」

入部していないんですが

ところで、先生、アルバム、卒アルってことですかァ。

「そうだね。書道部のところに載せましょう。これを真ん中に…」

いや、先生、書道部って、私入部していないんですが…
それに、優秀なあの子やあの子がいるじゃないですか。あまりにも失礼じゃ…

「いや、ここに載せます。あの子の作品はここに、この子のはここに。」

いやァ。さすがに、入部していない私がセンターというのは問題が…

「じゃ、入部届をいま書いてくれ!それでいいでしょう」

頑固なN先生にこれ以上言っても埒が明かないと察した私は、バイトに行くまでに書道部のあの子に話しに行こう…そう心に決めてサインをしました。そういえば、部費はあのときどうしたんだっけと思い返したら、翌日にキッチリ徴収されたことを思い出しました。消えていった3時間分のバイト代に当時はイラッとしたものです。

書道部の子に話をしに行ったら、そんなことはまったく気にしないそぶりで「そうなんだ~、あと数ヶ月しか部活しないけど、よろしくね!うち定例の活動ないし、ギター部と掛け持ちできるよ!」なんて優しいお言葉。いまも当時も彼女はモテキャラです。

ポジションよりコンセプト

卒業アルバムの書道部ページに鎮座ましました私の作品を見て、当時の担任の先生や校長先生、同級生までもが「詐欺だろこれ~(笑)」と大笑いしたこの件。

卒業後、N先生とお会いする機会があって、真意をお尋ねしました。

「ポジションよりコンセプト。名前より肩書より、芯に何があるかですよ。」

そのときのこの言葉が、当時モヤモヤしていたことをサラッと洗い流してくれただけでなく、いまでも私の指針のひとつになっています。

その話ができたのは、N先生の個展。
N先生は、そこからほどなくして、ご病気のために急に旅立ってしまったことを、その半年後くらいに知りました。

いまだに、たとえば「女性起業家」と括られるとモゾモゾして、落ち着かない気持ちになります。
中身がオッサンだからなのか「女性」で括られる集まりでは居心地の悪さを感じることが多いし、「起業するぞ―」という気持ちではなく、流れのままにフリーランスである私には「起業家」のフラグもしっくりきません。

その気持ちになるたびに、N先生の言葉を思い出します。

そういえば、「愛」「智」「美」の3文字。
私の名前と夫の名前、そして、心に留めている仕事や人生の判断軸に、3つの文字が入っています。
N先生は予言者―いいえ、ポジションなんか求めない、私の恩師です。

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