「釣った魚に餌をやらない」―
親しい人との関係性に悩む方からよく聞かれるこのセリフ。
では、相手が人でなかったらどうでしょう。
趣味には?
住む街には?
おうちには?
仕事には?―
今回は、ご自身のお仕事に餌をやり続ける仕事人をご紹介します。
おそらく義務感や使命感だけではないそのあり方は、決して意図的ではないのに人を喜ばせるもの。
「地球で指折りの小さな幸せ探すの上手い人」を自他ともに認める、無邪気でかわいくて、憎めなくて仕方のない私の親友の姿と重なったのはここだけの話です。
これ、おいしいんですよ~。
地元から少しドライブして出かけた、小さな町のお祭り。
ちょっと珍しいB級グルメや採れたてのお野菜を楽しんだあと、コーヒーの香りに誘われてブースを訪れました。
私は、コーヒーが好きでよく飲みますが、正直なところ味や種類を細かくは把握していません。
それどころか、行きつけのお店ではマトモに注文することがないので、「あったかいの…」とか、もはやコーヒーを頼んでいるのかいないのかすら怪しいレベルの悪い客です。
それでも、まろやかでこうばしい香りがすることと、ブースに漂うやさしい雰囲気は、私にも伝わってくるのでした。
こんにちは…コーヒー、いい香りで…
こんにちは!
これ、おいしいんですよ~。
おっとり、ゆったりと声をかけてくださった彼は、「おいしいんですよ~」と満面の笑みで返します。
あまりに幸せそうなお顔だったので呆気にとられつつも、
あ、とか、フ…とか、◯いかわばりに語彙力を失う私。
種類ごとの特徴をお聞きして、注文を済ませます。
小さなブースのなかで湯気をたてながら、くるくると準備しながら、
どうしても幸せそうで、会話しながらずっと動きを見ていました。
別のお客さまがブースにやってきて、チーズケーキやスコーンのことを尋ねます。
このケーキは上にお砂糖をかけて炙ってお出しするので、パリパリしておいしくて…
スコーンは、これがこんなふうに…
「どんなふうにおいしいのか」、まだ幸せそうに伝える彼の話をもはや遮る形で、「ああ、それはおいしいだろうねえ…」と、そのお客さまもあれこれと注文します。
そうでしょう、なんだか、どんなふうにおいしいのか想像したらもう手が出てしまうというか、ねえ…と、
客同士の会話をしたかしなかったか、私のお願いしていたコーヒーが届きます。
あ…
ありがとうございます、ときちんとお伝えできていた自信がないくらい、もうそのときはあれこれどうでもよくなっていました。
おうちで食べようと楽しみにしながら、ちゃっかりチーズケーキとスコーンを購入します。あ…と言いながら、その場で思わず一個つまんでしまった夫。そりゃ、しゃーないよ
たくさん味のことを対話したわけではないのに、「おいしいんですよ~」の最もシンプルな言葉と、ほんとうにおいしいと確信したその表情が、記憶のなかからすべての語彙力を奪い去っていきます。
もはや何屋でもアリなんです
ここ…のはずなのに、アレッ?
入口、ここ…?
お花屋さん…?あ、コーヒー?んん???
イベントからしばらくして、ずっと気になっていた実店舗へお邪魔することに。
直接伺ったお店のロケーションを思い浮かべつつ、インスタやマップでも調べて、ここで間違いないであろうという場所で彷徨うこと数十秒。
お店のロゴが確実にその場所にあることをみつけて、お店の中へ入ります。
あっ!!
来てくださったんですね!!こんにちはっ!
ああよかった、お店の場所はここで合っていた…という安堵が漏れてしまったのでしょう。
もしかして入るとき迷われましたよね…
もはや何屋なんだろうっていう~
何屋でもいいんですけどね(笑)
実は別店舗のカフェと同じ建物で営業されており、そのカフェのメニューも注文やテイクアウトができたり、
お店の中にはお花屋さんのアトリエもある関係で、ドライフラワーやリースで店舗内が満たされていたり、それなのにお花の香りがコーヒーの香りを邪魔してはいなかったり…
一見雑貨屋さんかお花屋さんにしか見えないお店のなかで、やはり彼は幸せそうに働いていました。
注文を済ませて、お店に飾られたお花を眺めながら、わァ、とまた◯いかわになってしまいます。
今回お世話になったお店 Benino COFFEEさん
今回お世話になったお店をご紹介します。
Benino COFFEEさん
お店の情報だけでなく、イベント出店情報も日々発信されているので、インスタでチェックされるのがおすすめです。
「今日はいつもよりちょっと良い珈琲を。」がコンセプトのBenino COFFEEさんのコーヒーは、なによりも楽しいのが特長。
決してポジティブな気持ちではない日にも、ワクワクする予定の前後にも、立ち寄るときっといいことがありますよ。
面白いから、書いているんです
待ちに待ったコーヒーがやってきました。
この日注文したのは、ハウスブレンドのひとつ、亜細亜ブレンド。
アジアのコーヒー豆をブレンドし、地元の人が好む味に仕上げていらっしゃるのだそう。
コーヒーとともにやってくるちいさなお花とカードも嬉しくて、尋ねます。
お花は店舗をシェアしているお花屋さんと一緒に考えたものだそうで、この日のお天気や季節にもぴったりでした。
コーヒーの産地や味って、メニュー表に書かれているといっても忘れちゃうじゃないですか。
しかも、豆の産地も、国や地域を聞いても「それどこだっけ」って、別のこと考えちゃうじゃないですか。
カードがあったら面白いから、書いているんですよ。
わァ…
カードの中の地図には、赤い点で産地が示されています。
豆のことも、全然知らないのにこんなに種類や香りの表現があることを知ると、どんどん興味がわいてくる不思議。
あれこれと想像が膨らみ、また◯いかわになってしまう私。
わァ、と言いながら、なんやかんやと思いついてはメモしてしまうアイデアフラッシャーの性が悲しいものです。
へえ!行ってみようかなあ!
その後何度もお店に通いながら、驚かされたのは周囲への興味と関係性です。
建物内のカフェの方との連携も本当にシームレスで、同じ飲食店なのに「もはや競合ではない感」をお互いに醸しているのは、カフェのオーナーさんの器の大きさはもちろんのこと、関係性のよさをうかがわせるポイントです。
またあるとき、こんな会話をしました。
最近ハマっているうどん屋さんの変わり種メニューについて、写真を見せながら話していたときのこと。
ここは、ぼくらのような飲食店の人間も注目しているお店なんですよね。
勉強になりますし、メニューの作り方が神がかっているっていうか…
へえ、行ってみようかなあ!
明日行きます!明日っ!
お若さゆえの行動力でもありますが、おそらくBenino COFFEEさんでうどんの提供は予定されていないはずです。
それでも「明日行く、すぐ行く」という探究心にまた、◯いかわモードの私。
私自身、少なく見積もっても95%以上、たぶん99%以上は好奇心で成り立っている人間だと自覚しています。
だからこそ、好奇心ゆえの危なっかしさが自らにあることも、経験的に理解してきました。
一方で、好奇心が満たされることが自分の幸せにもつながっているから、彼のように直接仕事にかかわりがあろうとなかろうと、あちこちに行って学んだり、感じ取ったりする時間を努めてとるようにしています。
共通点があったのかもしれない、と嬉しくなる気持ちは、次の来店時にいかにも短絡的であったと思い知らされました。
さくらブルボンは、お豆の構造がそもそもイレギュラーなんですよね。
通常は2つになっているものがひとつだけだから、それで小さいように見えるんです。
面白いでしょう?これをおいしく淹れるのが修行なんですわ~
おいしすぎて惚れ込んだ「今月のコーヒー」、さくらブルボンのお豆が小さいですね、と声を掛けると、
満面の笑みで彼は語りはじめました。最初にお会いしたときと、まるで同じように。
そうか、コーヒーをおいしく淹れようとしていて、毎回対話してしまうくらい、コーヒーが大好きで仕方がないのか―
ここまでのくだりでもはや疑う読者の方はいらっしゃらないであろうと思いますが、Benino COFFEEさんのコーヒーはほんとうにまろやかでおいしく、うっとりするようなお味です。
「好きこそものの上手なれ」を超える絶えない愛がそこにあり、釣った魚ならぬ惚れたコーヒーにずっと餌をやり続ける彼の生きざまが、おそらくそのお味の源泉。
コーヒー屋さんだから努力しなければならないとか、これがセオリーだからとか、そういうものではなさそうです。
びっくりするくらい、シンプルでストレートな「好き」の気持ち。
「へえ、行ってみようかなあ!」(だって、その話、コーヒーにも聞かせてやりたいし)
「これ、おいしいんですよ~」(おいしくて、ぼくは幸せなんですよ)
「パリパリでね、合うんですよね」(コーヒーに合って、たまらないんですよ)
「実は、スパイスとか入れるのもあるんですよ」(コーヒー、まだ知らない顔があるんですよ。かわいいでしょう?)
饒舌に語らなくても、カッコの言葉が鏡に照らされるように伝わってくる―
純粋な「好き」の思いがポジティブに周囲を動かして、おそらくあたたかい関係性を築かれているのでしょう。
喜ばれるといいなあ!
いつもとちがう席につき、訪れたイベントが面白かったという話を共有しながら、彼の構想を聞きました。
こんなのどうですかね?
なんか、合いそうだし、喜ばれるといいなあ!
イベントで普段と異なることにチャレンジしてみても良さそうだ、という構想には、ワクワクとともにコーヒーへのリスペクトを感じます。
「喜ばれるといいなあ」―
これは、私自身も仕事において、大切にしている感覚。
プロデュースしたり、事業やコンセプトの構想を練ったりするときにはひとりで取り組むことが多いため、声に出すことはさほど多くありません。
無邪気に声に出す彼を見て、ハッと驚かされました。
わァ…
喜ぶのは、お客さま、イベントの主催者…
きっとそれだけではありません。
彼に出会ったコーヒーが、からだ全体で大喜びしてしまうでしょう。
彼に愛されたコーヒーが運ぶあたたかみや香りは包まれた人を幸せにして、さらに「好き」や「幸せ」の素朴な感覚が連鎖します。
仕事人としての、最もシンプルな問いを、カップを通じて投げかけられています。
彼がコーヒーをずっと愛しているように、私自身も、あなたも、仕事や相棒やアイテムを愛し続けていますか―
大切なことに気づかせてくださって、ありがとうございます。
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